2015.02.26 提言 国の針路をあやまたない外国人介護人材の受入れを 現在政府・自民党は、介護分野への外国人労働者の受け入れを検討しています。 厚生労働省に設置された「外国人介護人材受入れの在り方に関する検討会」(以下、「厚労省検討会」)では、技能実習制度に介護職種を追加するための具体的検討に昨年10月着手をし、全7回の会議を経て、今年の2月4日に中間とりまとめを策定しました。 技能実習制度とは、技能移転を通じた開発途上国への国際協力を目的として創設された制度で、現在約15.5万人の外国人実習生がわが国に在留しています。最長3年間、現場でのOJTを通じて技能を身につけ、そして帰国後、母国でその技能を産業発展等に活かします。 今後厚労省はこのとりまとめをもとに法案を作成し、今年の通常国会に提出、成立を目指し、早ければ来年4月から第1陣の実習生が来日する見通しです。介護職種追加の留意点 厚労省検討会では、技能実習に介護職を追加することについて「留意すべき主な事項」として3点掲げています。すなわち、(1)介護職に対するイメージ低下を招かないようにするということ、(2)日本人労働者の処遇・労働環境の悪化につながらないこと、そして(3)介護が対人サービスであり、公的財源に基づき提供されることを踏まえ、質を担保し、利用者の不安を招かないようにすること、です。 留意事項(1)の介護職のイメージ低下については、介護の業務を単純労働とみなすかどうかによると思います。 技能実習による外国人介護人材受入れへの反対意見としては、現在、求められている介護ニーズは身体介護のみでなく、認知症への対応、医療的ケア、予防からターミナルケアなど幅広い介護が求められており、介護には一定の教育と専門性が必要」あるため、介護業務を単純労働と捉えて、技能実習制度対象職種に介護分野を追加し、外国人を受け入れるべきではない、というものがあります。 ただし、大前提として技能実習は単純労働の受け入れを禁止しています。仮に介護業務が単純労働であるならば、技能実習の対象職種に認可されることはないため、その心配は不要ということになります。 しかし現場の実情として、「外国人労働者が介護の現場で現実に行っていることの大半は、一般的に掃除、洗濯、買い物等といった家事援助などの『誰にでもできる仕事』といわれている仕事である」との声もあります。 これは制度そのものの是非というよりは、運用の問題であるとも言えるでしょう。実習生に技能を伝えず、ただただ単純労働に陥れる悪質な実態があるのであれば、それは介護に限った問題ではなく、まずそれを改めることこそ率先すべきでしょう。 しかし、なし崩し的に外国人労働者を受け入れてしまえば、今の状況が今後更に悪化するという問題意識は、決してないがしろにできません。今後技能実習制度そのものの見直しも同時並行でなされていきますので、その中で、抜本的な改善、対策を行っていくことが求められます。介護職員の処遇改善に向けて (2)の日本人介護職員の処遇・労働環境への影響についても、そもそも技能実習が安い労働力かどうかに全てかかっています。 技能実習生は日本人労働者と同様、わが国の労働法令の法的権利が保障されています。全国老人福祉施設協議会も、「低賃金構造について、介護産業全般の課題であり、ことさら『外国人だからとする差別待遇』は考えにくい」と主張しています。ある意味正しい意見だと思います。 介護職員の処遇改善、労働環境の整備、介護職員のキャリアパスの構築などを国、行政、関係団体、経営者などが協力して行うことは重要なことです。特に離職率対策については急務でしょう。 介護職員の平均離職率は16.6%(平成25年度介護労働実態調査)ですが、ホームヘルパーを除き、直接介護に携わる介護職員だけに限れば17.7%となっています。現在の介護職員を約170万人として、離職率を5%改善できれば、それは新たに8.5万人の人材を毎年確保するに等しく、経験年数が延長する分、効果はそれ以上のものとなります。2025年までの10年間で85万人にもなります。 つまり、離職率対策の如何によっては、現在の介護人材と合わせ、2025年問題の克服は現実的なものとなります。このことは、技能実習による受入れの是非に関わらず、不断に進めるべき重要課題だと思います。 (3)の利用者の不安対策については、コミュニケーション能力が一番重要な観点だと思います。厚労省検討会の中間まとめでも、初年度は日本語能力検定「N4」を必須とし、2年目以降を「N3」必須としています。 日本語能力試験公式ウェブサイトには、N3について「新聞の見出しなどから情報の概要をつかむことができる」「日常的な場面で、やや自然に近いスピードのまとまりのある会話を聞いて、話の具体的な内容を登場人物の関係などとあわせてほぼ理解できる」程度とし、N4については「基本的な語彙や漢字を使って書かかれた日常生活の中でも身近な話題の文章を、読んで理解することができる」「日常的な場面で、ややゆっくりと話される会話であれば、内容がほぼ理解できる」程度としています。 介護保険法第1条が求める、要介護者が「尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができる」ようになるための介護を実践するために、これで十分なのかどうかは、今後も継続的な検証を進める必要があるでしょう。海外の教訓も参考に 2014年4月21日に開催された法務省第6次出入国管理政策懇談会第8回会合に、日本介護福祉士会が提出した「外国人労働者の受け入れと,介護の技能と技術,日本語能力・コミュニケーションの重要性」と題する文章には、「文化の違いがとんでもないリスクや虐待につながる懸念がある」「文化の違いは価値観にも通じるため、その様々な理解出来ないことに対する感情のストレスは、目の前の対象者に向かう可能性も考えられる」という記載もありました。 日本に先行して介護職の外国人労働者を受け入れている台湾では、実はこの問題は深刻な社会問題となっているのです。台湾は1991年、介護を含む諸分野で、外国人労働者を合法的に受け入れ始めました。その数は2013年2月末時点で44万8千人。当初は製造・建設業の「3K職場」の人手不足解消に比重が置かれていましたが、この10年間で介護労働者が急増、約2倍になりました。 背景には、台湾で急速に進む少子高齢化があります。出生率は1985年に2.0を切り、2010年には一時0.9にまで落ち込みました。1993年には65歳以上が人口の7%を超える「高齢化社会」に突入。2017年には14%を超える「高齢社会」に突入する見込みだとされています。 しかし、介護分野の人材不足を外国人労働者の大量受け入れで賄うという台湾の試行は、斡旋業者の中間搾取や劣悪な労働環境を生み出し、失踪の多発などの社会問題をもたらしました。 台湾内政部入出国及移民署の調べによれば、外国人労働者受け入れを開始して23年間で、女性の外国人労働者の失踪者数は12万7千人にも上るとされています。そのうち10万人は出国が確認できたか、若しくは検挙され施設に収容されていますが、残りの2万7千人は依然未検挙で、国内に不法滞在しているとされています。その約半数が家事労働に従事する外国人労働者だとする説もあります。 住み込みの看護労働者では殺人事件まで起こるに至っています。2003年2月、総統顧問で障害者運動の指導者でもあった女性作家の劉侠が、身の回りをしていた33歳のインドネシア人女性に襲われて重傷を負い、のちに死亡するという事件が起こりました。 地元のマスメディア等は事件当時、「冷血の殺人者」としてインドネシア人女性を批判しましたが、外国人労働者の支援を行う民間団体のその後の調査によれば、彼女は7ヶ月間で休日はたったの1日しか許されていなかったといいます。 外国人介護労働者による殺傷事件はその後も起き、2006年9月には、在宅勤務のフィリピン人が雇用主の家族4人をナイフで刺し、軽傷を負わせる事件が起きました。地元の新聞の報道では「個人的な感情の問題」が犯行の動機とされましたが、長時間労働でまともに休暇が与えられていなかったという要因は共通しています。 問題は家庭内に留まらず、2005年8月には台湾高雄市で、タイ人労働者約300人による暴動が発生しました。主に台湾南部の地下鉄建設工事に従事していたタイ人労働者らは、雇用主の高雄高速交通社経営陣が給与の半額をクーポンで支給したことや、労働者から携帯電話を没収したことに不満を爆発させました。この事件で現地警察および消防署が出動しましたが、暴動は翌日の昼まで続いたといいます。 台湾でも、制度開始当初は少人数だけ受入れ、十分なチェックの下に拡大するというのが政府方針だったそうですが、受け入れを開始した途端、把握が難しいほど外国人労働者が急増し、歯止めがかけられない様態になってしまいました。台湾の失敗は、一足先に「超高齢社会」に突入している日本にとって、決して他人事ではない教訓となるでしょう。長期的な展望を 政府は技能実習による介護人材受け入れ拡大のみならず、外国人留学生が卒業後に介護福祉士の資格などを取得した場合に就労を認めることや、経済連携協定(EPA)による介護福祉士候補者の受け入れ拡大についても検討することを、閣議決定等しています。 これらは各々、技能実習とは全く異なる制度の趣旨があります。技能実習は、日本から相手国への技能移転が制度の主目的ですが、資格取得留学生への在留資格付与は専門的・技術的分野の専門家の受入れという側面が主です。それに対しEPAによる受け入れの目的は、あくまで国家間の経済活動の連携強化です。 各々重要な政策ですので、これらはしっかり区分して、精緻に制度設計を検討すべき問題でしょう。 いずれにせよ、一定の技能を持つ外国人に門戸を広げなければ、今後の介護の需要はまかなえないという事実から、目をそむけてはなりません。外国から来た方々の生活インフラを整えることも含め、長期的な視野に立った、国の針路をあやまたない戦略的な政策づくりが求められでしょう。 政府与党の重大な責務です。私もこの課題について議員連盟等で事務局長等を務める立場からも、しっかりと国会での審議に臨んで参りたいと思います。 介護報酬の大幅引き下げは「介護崩壊」を招く 前の記事 医師・薬剤師ともに活躍できる医薬分業の確立を 次の記事