調査捕鯨の正当性を世界に訴えよう

貴重な食糧資源としてのクジラ
 日本が南極海等で実施する調査捕鯨に対し、環境保護団体による妨害活動が行われたりするなど、国際的な関心が高まっています。何故日本は妨害を受けながらも調査捕鯨を続けているのか。その理由について、改めて明らかにしたいと思います。
 2050年、世界の人口は90億人に達すると言われている中で、将来的に食料が不足することは誰が見ても明らかです。穀物の栽培面積は減少し続ける一方、畜肉消費量は増え続けています。畜肉生産に消費する穀物生産は最早限界点に達しており、今後畜肉生産を増加させることは不可能だとされています。
 そうした中、人間の成長と生存にとって欠かせないタンパク源確保にとって、また食糧自給率の維持にとって、クジラはその解決策として有効な選択肢となります。日本は、クジラを食料資源の一つと考えていますが、日本以外にも、ノルウェー、アメリカなど複数の国で今でもクジラが食料として利用されています。
 そもそも地球の4分の3は海です。海からの食糧資源供給を確立しない限り、人口が増え続ける人類の食糧を支えるのは不可能です。調査捕鯨によってクジラは増加していることが明らかになっており、資源にゆとりがある種類のクジラを食用として利用することは、将来の食料危機に備えるためにも当然のことと言えます。
調査捕鯨は海の生態系を守る
 また、クジラは陸上の動物と同じく、海の中の生態系の一部を構成しており、クジラだけが極端に増えすぎれば、生態系のバランスを崩すことになってしまいます。現在商業捕鯨の全面禁止により、海の中で二つの問題が生じているとされています。
 一つ目は、クジラの増加による水産資源の消耗です。1987年に国際捕鯨委員会によって商業捕鯨が全面禁止されて以降、クジラは種類によっては年4%の勢いで増加していると言われています。そうした中、世界中の鯨類が消費する魚の量は、世界中の人類による漁獲量の3~5倍に達しているとも言われています。鯨はいわば、人間の競争相手にもなってしまっているのです。
 また、日本近海においてはカタクチイワシ、サンマ、サバ、スケソウダラなど、漁業の重要魚種が大量に捕食されていることが、調査捕鯨の胃内容物調査で明らかになっています。クジラが増えすぎたため、人間の食料になりうる魚まで大量に消費してしまっている現状が明らかになっています。
 二つ目は、小型クジラの急激な増加により、本来保護すべき大型クジラの数が伸び悩んでいることです。ヒゲクジラやミンククジラなどは近年急激に数を増やし、同じ環境で生活し、同じ魚類を餌とするシロナガスクジラなど絶滅危惧種の生態系を脅かしています。シロナガスクジラなどの大型クジラは、そもそも成長に時間がかかる種です。急増した小型クジラに餌を奪われることで、その生育は深刻に脅かされています。
 やはり、過剰に保護するのではなく、科学的調査に基づく分析と検証の下で、合理的な管理を進めていくことが大切です。調査捕鯨は生態系バランスに配慮しながら、地球の食糧問題を維持するために必要な除法を提供するための基礎となります。将来に亘って、クジラを食料として末永く利用していくための調査として、日本の調査捕鯨はとても重要なのです。
クジラとともに生きてきた日本人
 日本の捕鯨文化は長い歴史を持っていて、日本人は縄文時代から鯨を利用し、食べてきたと考えられています。先史時代から現在にいたる日本の長い歴史の中で、捕鯨を通じて信仰が生まれ、唄や踊り、伝統工芸など多くの捕鯨文化が実を結び、今日まで伝承されてきています。
 九州では約四千年前(縄文時代中期~後期)の遺跡からクジラの脊椎の骨を製作台にしてつくられた土器が多く発見されています。また、長崎県壱岐の原の辻遺跡から出土した約二千年前(弥生時代中期後半)の甕棺(かめかん)にも、捕鯨の様子を示す図柄が描かれています。
 その後仏教の伝来とともに、獣の肉を食べることが禁止され、魚による食文化が基本になりました。そのため、魚の仲間と考えられていたクジラも貴重な動物タンパク源として、愛用されるようになりました。712年成立の『古事記』にクジラが登場するのもその所以です。
 クジラが食品として本格的に普及し始めるのは、江戸時代に入ってからです。1606年には、和歌山の太地で日本最初の捕鯨専業組織「鯨組」が設立され、組織的な捕鯨が始まります。解剖や運搬、採油係など、300~500人からなる商業組織が各地に誕生し、高度な捕鯨流通網が形成され、その結果多くの庶民の食卓に並ぶようになりました。
 約70の部位について料理方法を記載した「鯨肉調味方」などの専門書も登場し、また各地でクジラの墓や供養碑が建てられました。さらに1675年には「網取り式捕鯨」が開発され、この方法が土佐、長崎などへ広がり、クジラの捕獲量を一挙に増加させることになります。
 しかし近代に入ると、皮脂から採れる油を主目的に、西洋諸国を始め各国が捕鯨をおこなうようになりました。やがて早く捕ったもの勝ちの乱獲状態となり、欧米各国が大規模な組織的捕鯨を展開したために、南極海のクジラ資源が激減。大型のシロナガスクジラやザトウクジラは、絶滅の危機にまでなってしまいました。しかし戦後、植物油が安価かつ大量に供給され始め、鯨油に取って代るようになり、西洋諸国はコストの観点により捕鯨から撤退しました。
 そうした中でも日本は最後まで捕鯨を続けていましたが、国際的な環境運動の高まりもあって、1982年には国際捕鯨委員会により、資源保護の目的で商業捕鯨の一時停止が決議され、さらに87年には鯨種やストックの如何に関わらず、全てのクジラの商業的捕獲が禁止されました。現在では、国際捕鯨取締条約に基づく調査捕鯨、小型捕鯨のみが行われています。
 皮脂から油だけ採り、残りの鯨体は捨ててしまっていたとされる西洋諸国と異なり、日本は食用以外にも皮脂はもちろん、内臓など70種もの部位を、完全利用してきました。鯨は肉や脂、皮から内蔵に至るまで、すべての部分が利用でき、用途も食用だけでなく薬品や工業用品にまで及びます。栄養価が高く、高タンパク、低脂肪で、非常にヘルシーな食品です。現在でも北九州や下関などのスーパーでは、鯨肉が細かく分けられて、マグロや牛と同じような価格帯で日常の食材の一つとして売られています。
日本の主張を世界に
 よく「日本の調査捕鯨に世界中が反対している」という声がありますが、それは事実に反しています。捕鯨に反対しているのは、食料供給のため水産資源に依存する必要性がなく、かつ経済的な観点から捕鯨から撤退した西洋諸国を中心とする国々だけで、決して世界中が捕鯨に反対しているわけではありません。こうした声が大きい先進国の意見をもって「国際的な批判が高まっている」と見ることは、正確ではありません。国際捕鯨委員会では、半数近い国が日本とともに鯨類資源の持続的利用を支持しています。
 一方で、国土を海に囲まれた日本としては、鯨類を含む海洋生物資源を人類の食料として有効利用すべきという主張を、粘り強く続ける必要があります。実際多くの国が日本の主張を支持しており、このような主張を続けることで日本が国際的に孤立したり立場が悪くなるといったことはありません。
 我々政治家がすべきことは、今後も調査で得た科学情報を提供しながら、日本人にとって伝統的な食料であるクジラを有効利用することの必要性について、世界中の人々に丁寧に説明をしながら、理解を求めていくことです。
 日本の調査捕鯨では、目視で頭数を数えるとともに、資源量やオス・メスの比、DNA調査による繁殖群の構成など、徹底した調査が行なわれていますが、これほど徹底した調査は世界でも日本しか行なっていません。科学的調査の成果に対しては、国際社会から広範な支持が集まっているのです。
 捕獲・加工技術、流通システム、料理方法など、世界でも屈指の捕鯨文化を持つ日本人にとって、先人が培ってきた技術を次の世代まで伝えていくのは、重要な責務でもあるようにも思います。日本の調査捕鯨に対する立場を明確にするとともに、国際社会にもっと理解を得る活動を深めていくべきです。
 元自民党水産部会長として、この問題は長らく取り組んでまいりましたが、改めて日本の主張を世界に伝えるべく、国政の場で取り組んでまいりたいと思います。

最近の記事

  • 関連記事
  • おすすめ記事
  • 特集記事
PAGE TOP