品目横断的経営安定対策について

 新幹線での往復の際や郊外への移動の際に、市街地を抜け車窓から大きく広がる田園風景を眺めるとき、都市の喧騒や公務での緊張から解放され気持ちがふと軽くなります。私達は自然の恩恵を受けて日々生活しているのですが、都市の環境や多忙な仕事は、自然のありがたさを脳裏より消し去り、例えばどの食べ物でも自然の中で育まれているのにもかかわらず、日常生活の中ではあたかもスーパーで買うことだけですべてが完結しているかのような錯覚に陥ります。
 私達の生活は自然に支えられているという当たり前の事、また水産物を除いて食べ物のどれをとっても農家の皆様の努力があってこそ、生活ができているという事を都市の人達はなかなか実感できず、農業の現状を直視できていないのではないでしょうか。
 今日本の農業は就業人口の減少と高齢化により、大変な状態になっています。数字でみますと平成2年の農業の専業就業者人口は293万人でしたが、平成17年においては224万人と約4分の3に減少しています。また就業者の年齢は平成2年では40~64歳の方が全体の61%でしたが、平成17年には65 歳以上の方が57%と今や高齢者の方が、農業の主役となっています。これら高齢化と後継者不足の結果として、耕作放棄地が平成2年に22万haから平成17年39万haと、兵庫県で言えばだいたい西播磨地域全体の面積にあたる規模の農地が15年間で耕作放棄地となっています。
 また経済のグローバル化に伴い、国際経済はWTOやFTA、EPAを通じ自由化へと移行しています。それによって農産物に関しても、自由化の波が押し寄せており、今まで様々な補助金を出して、輸入農産物との価格差を補い農業を守っていましたが、今後価格差の補助に関しても制約が出てくるようになってきます。
 このような農業の環境変化への対策として、本年度より品目横断的経営安定対策が施行されます。この品目横断的経営安定対策とは、米、麦、大豆、てん菜、でん粉原料用ばれいしょという、土地を集積し大規模生産をすることで利益が出る、諸外国との生産条件の格差が特に大きい作物を対象としています。日本の農家一戸あたりの農地面積は4.7haとかつて食料自給率50%を割った(現在は70%)イギリス17.0haと比較しても非常に小さく、小規模経営による非効率により、農産物に大きなコストがかかる生産構造となっています。その現状を今後やる気ある農家に農地を集約していくことで、日本の農業を守り、消費者の皆様には輸入農産物とは違う、顔の見える安全安心な食料を供給すると同時に、農業の多面的機能といわれる、水害などの緩和や日本人なら多くの方が感じるであろう、農村へ行ったときの安らぎなどを、維持するためにも、この新たな品目横断的経営安定対策は重要なものとなってきます。
 具体的には、この制度で農業経営の区分は認定農業者と特定農業団体及び集落営農組織という形で分かれます。
 認定農業者とは4ha以上の農地を持つ農家で、農業経営改善計画(5年後の目標とその達成のための取組)を市町村に提出し、市町村がその計画を認定することにより、認定農業者となります。また集落営農組織は小規模農家が共同で営農を行う組織で、その総面積が20ha(中山間地域は10haまで緩和)以上集まり経理を一元化することで、今回の支援の対象となります。この集落営農組織は、五年後に法人化し特定農業団体になることが求められています。また集落営農のメリットとして農業機器を共同利用することにより大幅に経費が削減され、例えば水田作において約1haあたりの農家の所得が現在8万円としたときに、集落営農による共同化を進めることで、43万円の所得になり、労働時間も機械による効率化で633時間が121時間となるなど、今までの日本の小規模農業経営のあり方を根底から覆すような試算も出ています。
 対策の内容として、米、麦、大豆、てん菜、でん粉原料用ばれいしょは、今まで不作などで収入が減少した場合、生産者1:国2で拠出されていた基金により補てんをしていましたが、今後生産者1:国3と生産者の負担を軽くし天候等によるリスクの負担が軽減されます。また、米以外にそれぞれ支払われていた外国産との市場での大きな差額に対する助成も、今後国際ルールの変更で生産誘発的な助成が制限される事を考慮し、過去3年間の生産実績に基づく支払いと生産量、品質に応じた支払いの二つの支払いに整理されます。これら二つの対策は今後認定農業者、特定農業団体及び集落営農組織にのみ支払われることとなります(米を除く)。また認定農業者、集落営農組織は無利子融資や税制上の優遇など、さまざまなメリットがあり、農地の集約化を促します。
 かつての農業政策はばらまきというイメージが付きまとっていたかもしれませんが、今後はこのような農地の集約化で、日本農業も国際競争力を徐々につけていける産業へと変貌し、またやる気ある特に若い人達が、自らの努力を大きく農業経営に反映し、安定した魅力ある農業に変えていくことで、日本の農業が活性化し、食料自給率が上がり、効率化によるコストダウンで日本の穀物の値段が安くなる事を期待します。

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