少子化対策(2)「社会全体で子育て費用の捻出を」

((1)「まずは男性の意識改革から」のつづき)
スウェーデンの事例
 近年出生率が下げ止まった国の中には、育児休業制の充実や、男性の育児参加(育児休業取得を含む)が功を奏したと指摘される国もあります。代表的な例がスウェ一デンです。スウェーデンの出生率は1.89で、日本の1.43(2013年)を大きく上回っています。
 スウェーデンの育休は両親合計で480日。そのうち390日間は給与の8割が補償され、残りの90日間は180スウェーデンクローナ(約3,000円)が支給。自営業も対象に含まれ、更には独自に上乗せして9割まで補償している企業もかなり多数あるとのことです。夫婦で同じ期間を休めばボーナスが支給され、またパートナーに譲れない期間が60日間ずつあり、それぞれが休まないと権利が消滅するため、最低でも60日間取得しないと勿体ない、という空気もあるとのことです。
 この制度の導入で、スウェーデンの男性の育休取得率は上昇し、子どもが小さいうちに休む父親も増えています。育休は子どもが8歳になるまで取得可能で、父親の9割がこの制度を活用しているとされています。待機児童数はほぼゼロで、9割の児童が2歳までにプレスクールと呼ばれる保育所に入ります。
 一方日本でいうところの0歳児クラスはスウェーデンにはありません。それは、夫婦とも育休を思う存分に取ることができるから必要ないのだと言います。病児保育の施設も同様の理由でないとのことです。そして教育費はもとより、出産費用も国が負担するためほぼ無料です。
 その結果、スウェーデンの専業主婦率は2%(20~64歳女性のうち家事が主務の人の割合、2011年)、平均就業率は8割を超し、日本がそれぞれ4割弱、7割弱であるのに比べれば、大きな隔たりがあります。
 女性の社会進出も盛んで、スウェーデンの国会議員の45%は女性(日本の衆議院は8%)で、主要政党の比例名簿には男女の候補者名が交互に並ぶとされています。それに比べ登用の遅れが指摘される民間でも女性の管理職比率は28%で、安倍政権が掲げた2020年の目標30%を、ほぼ既に達成していると言えます。
 一方日本では、民間企業では約1割、官公庁では3%です。週平均就業時間も、スウェーデンの男性が週34時間、女性が週28時間であるのに対し、日本は男性46時間、女性が35時間と、大きな隔たりがあります。
 しかし、こうした充実した福祉環境を保つため、税金等の国民負担は日本より高めです。消費税率は最大25%。「独身だと税金を取られるばかりだから、子どもを産まないと損」という空気もあるのだと言います。
N分のN乗方式の論点
 今年3月7日に甘利明経済財政・再生担当大臣は、所得税の課税対象について、現在の個人単位から世帯単位にする検討の着手を明らかにしました。世帯単位で課税を実施した場合、子どもが多ければ所得税が減ることとなり少子化対策になるという指摘がある一方で、専業主婦世帯の減税幅が大きくなることから、慎重な見方も少なくありません。
 またその中で、現在フランスで採用されている「N分N乗方式」も想定対象として挙げられました。N分N乗方式は世帯課税の一種で、所得税の税額を計算する際に、世帯の総所得を合算した上で、それを夫婦と子供数を合計した家族人数で割り、累進税率を適用して税額を出して、それに家族人数を再びかけ直して納税額を算出する方法です。
 例えば世帯収入6万ユーロ(約840万円)の世帯の場合、仮にこの世帯が夫婦2人だけで構成されている場合、(1)まず6万ユーロを家族人数2で割ります(=3万ユーロ)。(2)3万ユーロにかかる税率は約37%ですので、基礎税額は約1.1万ユーロになります。(3)最後に、家族人数2をこの1.1万ユーロにかけることで、この世帯の所得税2.2万ユーロが算出されます。
 一度人数で割って、最後にかけ直しているのですから、家族人数が何人でも一緒ではないかと思われるかもしれません。それでは、今度は夫婦と子3人のケース(計5人)を考えたいと思います。
 (1)6万ユーロを家族人数5で割ると、1.2万ユーロになります。(2)1.2万ユーロにかかる税率は約19%ですので、基礎税額は約2,300ユーロになります。(3)最後に、家族人数5を2,300ユーロにかけ、この世帯の所得税1.15万ユーロが算出されます。夫婦2人の時に比べて、税額は約半分になりました。
 お気づきになったかもしれませんが、日本と同じくフランスも累進税率という、所得が多ければ多いほど高い税率が課されますので、最初に所得を割る家族人数が多ければ多いほど、適用される税率は低くなります。極端な例ですが、世帯年収が6万ユーロあっても、家族人数が15人いれば、所得税はゼロになります。15で割るとほぼ所得がないとみなされ、適用される所得税率も0%になるからです。
 日本の場合は、家族が15人いても840万円の収入があれば200万円程の税金は免れません。家族が多ければ多いほど税金が安くなるこのフランスの「N分のN乗方式」は、税金が負担になる家計にとって、多子多産のインセンティブを与えていると言えるでしょう。
 ちなみにフランスでは現在、単純に「家族の人数=N」ではなく、現在は第一子と第二子のみ0.5人とカウントされる仕組みになっていますので、夫婦子1人の場合N=2.5、夫婦子3人の場合はN=4となります。
 もっとも、Nで割る前から税率がほぼゼロに近い低所得者は、何人子供がいても税金はほぼゼロで変わりませんので、日本のように児童手当が別途もらえる方がメリットが大きいという議論もあります。
 子供の数の増加を阻んでいる最大の原因の一つは収入ですから、日本にこのN分のN乗等の世帯課税を検討する場合は、低所得者への施策が必要だという視点も忘れないようにしなければなりません。「給付付き税額控除」など、日本の手当制度の長所と、海外のダイナミックな税額控除を組み合わせる視点も重要ではないかと思います。
 また、フランスには家事支援減税があり、ベビーシッターなどに支払った費用の50%を所得税から税額控除できる仕組みがあります。1975年に創設され、40年間続いているこの制度のおかげで、フランスでは子どもを保育所や託児所等の施設に預けるだけでなく、自宅でベビーシッターを雇ったりすることも選択肢となり、女性が子どもを授かっても働き続けられやすいとのことです。
 N分のN乗方式にせよ家事支援減税にせよ、日本に導入するには財源の問題があります。フランスでは家事支援減税による税収の減収は約37億ユーロ(約3,800億円)程度とされており、その減収を補填するだけの財源が必要です。
 フランスでは、子育て支援の財源として企業も伝統的にお金を拠出しています。子どもが成長していずれは企業の労働力となる考え方があるからとのことです。このことからも、子育て支援の費用を社会がどのように負担していくのか、大きな枠組みでの議論が重要でしょう。
((3)「少子化対策こそ国家百年の計」につづく)

最近の記事

  • 関連記事
  • おすすめ記事
  • 特集記事
PAGE TOP