利用者視点に立ち「特養原則個室化」の見直しを

深刻な入所待ち問題
 介護が必要になり、老人ホームに入りたくても「入所の申し込みをしたら何十人待ちと言われた」「何年も待たないと順番がまわってこない」などといった体験談を見聞きしたことがある方も多いと思います。
 「特別養護老人ホーム」(特養)の入所待ちが多いことは、よく知られています。厚生労働省の調べでは、特養の入所待ちは全国で約52万人(2013年)いるとされています。さらに、「要介護4~5」で、在宅で入所を待っている人は8.6万人に上ります。重度の要介護者の受け皿が不足している問題は、とても深刻です。
 特養は長年、相部屋(多床室)中心でした。しかし厚生労働省は2003年に方針を転換し、個室を特養の基本とすることとしました。
 厚労省は2014年までに特養の定員の7割以上を個室化する目標を立てるとともに、2011年には新築、改築、増築とも原則個室(夫婦の場合2人)とする省令を出し、その翌年には相部屋の介護報酬を下げました。
 更には特養建設への国庫補助が地方へ移譲・一般財源化されるに伴い、全国の自治体の多くで、新規の特養開設は個室型でなければ補助金が出ないようになりました。
 しかし今なお個室型の特養は、全定員の4分の1にとどまっています。
利用者負担の増大化
 かつては有料老人ホームに比べ負担が少なく利用しやすい施設であった特養ですが、こうした原則個室化の流れの中で、部屋代の負担も大きくなってきました。
 平均的な月当たりの自己負担額で比較すると、老人保健施設が、ユニット型個室の場合が約13.2万円、多床室の場合が約8.2万円、特別養護老人ホームが、ユニット型個室の場合が約13万円、多床室の場合が約7.9万円とされています(平成25年6月12日衆議院厚生労働委員会)。これでは、国民年金の受給のみの方は入居できず、厚生年金老齢年金受給者の方でも、受給額を超すケースがあるでしょう。
 個室は自宅に近い住環境を作り、一人一人のプライバシーや生活リズムを尊重したケアがより達成しやすく、個人の尊厳の尊重という介護の大原則により近いものであることは理解できますが、それを優先するあまり、介護のセーフティネットから漏れてしまう方が生じてしまっては、本末転倒でしょう。
 52万人を超える待機者解消のためには、相部屋も認めるべきだとの議論が都道府県から出てきています。「原則個室化」という国の方針に反し、都道府県と政令指定都市の7割以上が、4人部屋などの新築を条例によって認めているとされています。その背景には、個室の利用者負担が低所得者には重いことなどを理由に挙げる自治体が多いとのことです。
 利用者の負担の問題は深刻です。横浜市のように、独自の助成制度で支援しているケースもありますが、大抵の自治体はそれだけの余力もなく、個室に入ることが困難な人が地方に沢山いるのです。
個室ケアのメリット・デメリット
 それでは何故急に国は「原則個室化」への舵をとったのでしょう。
 個室における「ユニットケア」は、京都大学の故外山義先生が提唱されたもので、居室を相部屋ではなく個室とし、10名程度のユニット単位で、食事・入浴などの生活を行うことによって、それぞれの入所者の生活に応じた個別ケアを実践しようとするものです。
 介護スタッフもユニット単位で配置されるため、入居者の希望や身体状況の変化に積極的に対応することができます。様々な調査によって、このユニットケアは、これまでの多床室ケアと比較して、食事量が増え、ポータブルトイレの設置台数が減少するなど、入居者に良い影響があることも謳われていますが、一方で、非常に非効率で運営にお金がかかる介護システムとなっているとも言われています。
 まず挙げられるのが、ユニットケアが多くの人手を要する点です。スタッフの人手が、従来型以上にかかりますが、特に地方では、そう簡単に人手は増やせません。
 少子高齢化の中で、ケア人材を確保できるかどうかが、地域の介護の最重要課題となっています。人材確保については目をつぶったまま、一方で画一的な方針を押し付け続けるのは、非現実的でしょう。
 また、個室型のメリットとして「家庭的になりやすい」という事が喧伝されました。ユニットケアを行う事で、介護士と利用者が、なじみの関係になりやすいという話です。
 ところが実際は、それが裏目に出るケースも多いようです。 従来型に比べて個室型のほうがスタッフや利用者同士の人間関係が悪化した際に、歯止めがききにくいという事があるようです。すると、スタッフの離職率も上がる結果となります。
 人手も多くかかり、施設の整備にもお金がかかりますので、当然一人あたりのコストは上がります。しかし利用者への価格転嫁も限界があります。そうした現実の下、実際には、個室型でも、従来型と同じくらいのコストでの運営を強いられている施設も沢山あります。そのため「個別ケア」の質を低下させ、「多床室ケアよりも劣るケア」をせざるをえない状況の施設も出てきています。これでは本末転倒でしょう。
 朝日新聞が2013年5月公表したアンケート調査でも、個室でのユニットケアについて、「1人では寂しい」「部屋に人がいるので安心」と言った相部屋の環境を望む利用者が一定数いることが分かっています。
 プライバシーが守れる程度のしきりがあり、尚且つ人の気配が常に感じ取れる環境であれば、安心できる住環境と言えるのではないでしょうか。
 いずれにせよ、ユニットケアと多床室ケアには、それぞれ一長一短あると言っていいでしょう。 
多床室におけるケアの再検討を
 2007年12月段階では、厚労省老健局は自治体向け文書において、「現在、全国にある特別養護老人ホームのうち大多数は従来型であることから、今後、利用者の選択の幅を広げるため、ユニット型の特別養護老人ホームの整備を推進しているところである」と回答していました。
 国主導で、「利用者の選択の幅を広げる」目的で進められてきた個室型の整備が、いつしか強制的なものとなり、現場の実情を無視した押しつけ型のものとなってしまっているのであれば、今一度、問題意識を振り返って考え直す必要があるでしょう。
 国の方針転換間際に設置した施設は、今後何十年も使用することになります。「個室は個別ケアが可能=善、多床室には不可能=悪」の単純二律論では、待機者数は益々増えるばかりです。
 利用者が重度化する中で、個室こそ最善とする考え方には反論もあります。より質が高く効率的なケアを実施できるような環境整備こそ必要でしょう。また、従来型特養と個室の人員配置がともに3:1と同じであることも非現実的です。これについても改めていくべきでしょう。
 多床室型施設も今後相当期間継承されることを前提に、多床室における個別ケアの在り方についても、政府がしっかりと検討・研究の場を設けていただきたいと思います。
 補足給付等を含めた低廉な施設利用を可能とする方策を国が完全に実施できるよう整備が整うまでは、利用者が多床室を選択できるような環境を保持するべきだと考えます。
利用者の視点で考える
 国が急ブレーキ・急ハンドルで方針転換を行った結果、自治体の多くでバラつきが生じ、国と自治体の方針、理想と現実の狭間で苦労するのは他でもない利用者、被保険者です。
 大事なことは被保険者の皆様が、必要なときに、なるべく早くそのサービスを受けることができ、「終の棲家」として望ましい住環境に日々を暮すことができる環境を整えることです。
 私も2011年の参議院選挙の際、「介護施設の充実」とともに、「45万人が待機する特別養護老人ホームを増設する」旨を公約に掲げ、当選をさせていただきました。自民党も2012年の衆院選のマニフェストで「プライバシーに配慮した相部屋整備」を掲げています。
 今後も自民党として責任を持って、この問題について提言・議論して参りたいと思います。

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