TPPに負けない強い兵庫の農林水産業を

 2月5日、日米など12か国がTPP(環太平洋パートナーシップ協定)に署名しました。6年近くに及ぶ交渉が、ついに結実しました。安倍総理は「TPPは国家百年の計。国民の豊かさにつなげていきたい」と語っています。これから国会でも、TPPの承認と、畜産農家の支援策などを盛り込んだ関連法案について審議が行われます。
 TPPの締結により、関税撤廃などで安価な食品が手に入りやすくなるとの声がある半面、既に40%を切る食料自給率のさらなる低下や地域農業の疲弊など、わが国農業全体に与える影響が危惧されています。
 しばしば「日本の縮図」とも言われ、日本海に面した但馬地方、冷涼な気候の中部山間地、冬季も温暖な瀬戸内沿岸や淡路島と、全く性格の異なる農業が展開され、都市農業と集落営農、大規模・土地集約型農業など、色々な形の農業形態が存在するわが兵庫の農業にも、影響が出ることは間違いありません。
 兵庫県は今年1月19日、TPPで県内の主要農林水産物13品目の生産額が約5~8億円減少するとの試算をまとめました。昨年末に政府が発表した試算に基づいたもので、13品目の産出額約961億円に対し、比率としては1%未満にとどまりました。
 しかし、最も影響が出る牛肉では1.7億~3.4億円も県内生産額が減少すると見込まれるなど、生活に影響し、看過できない農家の方も多数おられると思います。
 TPPの大筋合意で影響を受ける農林水産物の中でも、特に影響が大きいのがコメ、麦、牛肉・豚肉、乳製品、砂糖原料の、いわゆる「重要5品目」です。このため、衆議院と参議院の農林水産委員会は、日本の交渉参加を前にした2013年4月、政府に対して配慮を求める決議を行いましたが、交渉の結果、重要5項目では全594品目のうち、7割に相当する424品目が、関税撤廃の例外となりました。
牛肉
 兵庫県に特に影響が大きい牛肉ついては、現在の関税が現在38.5%であるのに対し、協定発効時に27.5%にまで引き下げることになりました。さらに、協定発効から10年で20%に、16年目以降は9%に段階的に引き下げます。
 農水省によれば、国内産和牛の昨年度の平均価格は1キロ当たり2977円、和牛と乳牛を掛け合わせた交雑種の価格は1893円であるのに対して、国際価格は633円と大きな差があります。長期的には輸入牛肉と競合するとして、国内産全体の価格が下落する可能性があります。
 一方、一定の輸入量を超えれば関税を引き上げる「セーフガード」という制度を導入することで、国内の生産者への影響を抑える方針です。
 牛肉のセーフガードは、協定の発効1年目には最近の輸入実績から10%増えた場合に、関税を現在の水準である38.5%まで戻すという形で行なわれます。関税の引き上げ幅は段階的に縮小し、15年目以降は、18%までしか戻せなくなる見込みです。その後、4年間セーフガードの発動がなかった場合は、権利が失われます。
 兵庫県にとっても、ブランド力の高い神戸ビーフや但馬牛などのブランド牛肉の価格は、輸入牛肉とは価格帯が異なり、影響は比較的小さく、価格も低下しないと見込まれています。
 3年前に始まった神戸ビーフの輸出は拡大中で、国内でもブランド力がさらに上昇しています。また但馬牛もとても人気が高く、1キロ当たりの平均単価は3500円程度と、国内産和牛の平均価格を500円以上上回るなどの高いブランド力で、海外でも戦っていけるだけの競争力があるため、TPPをチャンスにも出来ると思います。
 一方ブランド力がない牛にとっては、TPPのダメージは大きく、結果として交雑種などの価格は下落すると見込まれています。また消費者が安い輸入品に流れ、国産離れをすると、神戸ビーフや但馬牛といったブランド牛でも、国内販売量が低下する可能性もあり、油断はできません。
豚肉
 豚肉は、価格が安い肉には現在1キロ当たり482円の関税がかけられていますが、協定発効時に125円に引き下げられます。その後、発効5年目に70円、10年目以降には50円に削減することになりました。
 国内の畜産農家と競合する安い豚肉ほど関税を高くする、今の「差額関税制度」を維持することや、中国など海外で豚肉の需要が急激に伸び、ほかの輸入国との買い付け競争が激しくなる可能性があることから、当面は輸入の急増は見込みにくいとしています。
 ただ、長期的には関税の引き下げに伴って、価格の安い豚肉の輸入が増えることによって、国内産の価格が下落する可能性もあるとしています。 兵庫県内でも、生産額が4千万~8千万円程減少すると試算されています。
 豚肉のセーフガードは、TPP発効5年目に関税が70円まで下がった段階で発動可能となり、一定の輸入量を超えた場合に100円まで戻します。その後、セーフガードによる関税引き上げ幅は段階的に縮小され12年目以降は廃止されます。
コメ
 日本とアメリカの2国間協議で最大の焦点となっていた主食用のコメの輸入拡大については、日本はこれまでの関税は維持する一方で、新しい輸入枠を設けることで合意しました。輸入枠の量は、協定の発効時は年間5万6000トンですが、13年目以降7万トンまで増やし、最終的に年間7万8400トンまで広がります。
 これとは別に、お菓子やみそなど調味料の原料に使う加工用のコメについても、年間6万トンの新たな輸入枠を設けます。
 兵庫県のコメの産出額は440億円と、県内の農林水産物の全体1476億円の約3割を占めています。しかし、輸入米増加に相当する国産米を国が備蓄米として買い入れる制度もあり、主食用米の国内流通総量は変化せず、価格低下の影響は最低限度まで抑えられると見込んでいます。
 小麦と大麦は、国内の需給と価格を安定させるため、国が一括で輸入して国内業者に販売する「国家貿易」を行っています。業者に販売する際には、国内の生産者を保護するため、「マークアップ」と呼ばれる事実上の関税を輸入価格に上乗せしています。
 交渉の結果、国家貿易の仕組みは維持する一方、小麦と大麦の事実上の関税の金額を段階的に引き下げ、9年目までに45%削減することになりました。このマークアップ引き下げ相当分だけ価格が低下するため、県内生産額としては3千万円ほどの減少になると見込まれています。
 さらに、小麦はアメリカとカナダ、オーストラリアを対象に国ごとの輸入枠を設けることになり、輸入枠は協定発効時には合わせて19万2000トン、7年目以降は25万3000トンになります。一方、大麦もTPP参加国を対象にした輸入枠を設けることになり、協定発効時は年間2万5000トン、9年目以降は6万5000トンにすることとなりました。
乳製品
 乳製品について、日本は輸入を制限する現在の国家貿易の仕組みは維持する一方、バターと脱脂粉乳について、TPP参加国を対象にした新たな輸入枠を設けることになりました。輸入枠は、協定の発効当初には生乳換算でバターと脱脂粉乳合わせて年間6万トンとした上で、その後段階的に増やし、6年目以降は7万トンまで増やすことになりました。
 チーズでは、粉チーズとチェダーチーズ、ゴーダチーズは16年目に関税を撤廃するため、長期的には国内産の価格が下落することで、乳製品の原料となる生乳の価格も下落する可能性があるとしています。
 農林水産省は、バターや脱脂粉乳は無秩序に輸入されることはなく、牛乳も含めた乳製品全体の国内需給への影響はない見込みだとしていますが、県内の小規模酪農家には少なからず影響があると見込まれています。
 というのも、酪農大国ニュージーランドなどからの安価な乳製品の輸入拡大に伴い、乳製品に仕向けられる県産生乳の価格も低下し、700万円程度県内生産額が減少すると見込まれているのです。
鶏卵・水産物
 兵庫県にとって影響が見逃せないのが鶏卵です。兵庫県の試算では、その影響額は牛肉について大きく、1億~1.9億円の県内生産額の減少になると見込まれており、甚大です。
 鶏肉は、現在最大11.9%の関税を11年目までに、鶏卵は現在最大21.3%の関税を13年目までに、それぞれ撤廃します。
 全国的にはいずれもTPP参加国からの輸入量が少ないうえ、輸入品は冷凍骨付きもも肉や、加工食品の原料などに使う液卵などが大半であるため、国内産との競合はほとんどないとして、影響は限定的だと見込まれるとしています。
 しかし、関税の撤廃によって輸出国が日本向けの輸出を増やしたり、品質を向上させたりした場合、長期的には国内産の価格が下落するため、加工食品用の鶏卵の生産が盛んなわが兵庫県では、大きな影響が出ることが見込まれています。
 国の対策ではこの点についてあまりしっかりと触れられていませんので、鶏卵の生産減少対策について、しっかりと取り組んでいく必要があると考えています。
 その他、アジなどの水産物の県内生産額が5千万円程減少すると見込まれています。
TPP総合政策大綱
 こうした農業への影響を踏まえ、昨年11月に政府はTPP総合政策大綱を策定しました。大綱では、中小企業の海外進出や農産品の輸出を促す一方、輸入増の影響を受ける農家の保護策も打ち出し、攻守両面の政策を盛り込みました。
 農林水産物の輸出額を2020年に1兆円とする従来の政府目標の達成も、前倒しします。具体的には、農家が新しい設備を導入する際に費用の一部を補助する「畜産クラスター事業」を拡充するほか、地域の食肉処理施設や中小の乳業メーカーの再編を支援するとしています。
 牛肉と豚肉の生産者への支援では、生産者の平均的な収入が生産コストを下回り、全体で赤字経営になった場合にその赤字分の8割を国と生産者でつくる積立金から補填する今の制度の拡充を行ないます。毎年度、予算編成にあわせて決められるこの仕組みを法制化して恒久的な措置にするとともに、補填の割合も9割にまで引き上げるというものです。
 「農は国の基(もとい)なり」。わが兵庫県の農業がTPPを契機に衰退、淘汰されてしまうようなことが、間違っても起こらないように、引き続き政府を挙げた支援体制の整備について、国政の場で訴えかけて行きたいと思います。

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