神戸医療産業都市を世界最先端の医療拠点に

神戸医療産業都市の歩み
 現在神戸ポートアイランドには、数多くの先端医療技術の研究開発拠点が集積し、クラスター(産学官連携拠点)が形成されています。この日本最大級のバイオメディカルクラスター「神戸医療産業都市」は、産学官の連携により、21世紀の成長産業である医療関連産業の全国的な拠点を作ろうと計画されたものですが、今や神戸のみならず、関西経済、そして日本経済の牽引役としての、大きな期待が寄せられています。
 神戸医療産業都市の試みは、阪神大震災を一つの契機としています。1995年1月17日、阪神淡路大震災を境に神戸の経済状況は一変しました。当時の被害額は7兆円にも上り、これは当時の神戸市の1年分の市内総生産に相当する額でした。
 神戸市の市民所得も全国平均以下になり、重工業のインフラが全てストップ。それにより、多くの企業が市外に流出し、神戸市は突如、重厚長大産業からの転換を迫られることになりました。
 震災後、産業界や県市議会から、神戸空港を活用し、外資系医療機器メーカーの誘致による重厚長大産業からの転換を図れないかとの声が上がりました。これが神戸医療産業都市構想の出発点です。
 被災から3年経った1998年、神戸医療産業都市構想懇談会が発足し、米国の医療クラスターを念頭に検討が始まりました。しかし当時日本にはまだ「クラスター」という概念がなく、暗中模索の中での検討でした。
 そもそも日本と米国とでは、医療保険制度に大きな違いがあります。米国は民間保険中心ですが、日本は国民皆保険制度で、産業との連携において根本原理が異なります。政府・厚労省が医薬品や病床数や医療機器の研究開発まで規制する日本では医療サービスの集積や差別化を図るのは難しく、FDA(食品安全委員会)のように独立・一元化された認可機関が存在する米国とでは、スピードの面でも日米間で大きな隔たりがあったのです。
「橋渡し研究」の重視
 しかしこの日米間の産業化のスピードの違いこそが、神戸医療産業都市構想の大きな起爆剤となりました。基礎研究の成果を臨床や産業に転化させるという「トランスレーショナルリサーチ(橋渡し研究)」をわが国でも強化すべき、との問題意識が神戸を中心に巻き起こり、それこそが神戸医療産業都市構想の原動力となったのです。
 そこから、まずは医療産業都市の基本原則を「基礎的研究の臨床への活用」とし、目的を(1)雇用の確保と神戸経済の活性化、(2)先端医療の提供による市民福祉の向上、(3)アジア諸国の医療技術の向上による国際貢献、の3本柱とすることが決定されました。
 そうした経緯があったため、神戸医療産業都市構想では、研究開発型の民間企業との協働が特に重視されました。アスビオファーマ(第一三共グループ)、日本ベーリンガーインゲルハイム(ドイツ)などの大手製薬会社、医療機器メーカー、異業種から参入したものづくり企業のほか、創薬ベンチャーや商社、治験受託企業などさまざまな業態の企業が進出し、現在では基礎研究から臨床・治験、そして製品化までの全体プロセスを包含するクラスターを形成するに至っています。
 今や神戸医療産業都市は、医療産業拠点として国内ではトップランナーの位置を占めています。神戸医療産業都市の強みは、先端医療センター、理化学研究所の発生・再生科学総合研究所センター、ライフサイエンス技術基盤研究センタ―などの中核施設を擁し、進出した企業を支援する環境が整っていることです。現在、この医療産業都市に進出している企業は280社を超え、市内への経済波及効果は、2011年3月末で1,042億円、関西全体への経済効果は2,225億円と推計されています。
高橋政代先生と
 そんな中、神戸市は今年、この神戸医療産業都市に新たな先駆的技術拠点を導入する試みに乗り出しました。人工多能性幹細胞(iPS細胞)を使った目の網膜の再生医療などを行う施設として、30床の病床を擁する「(仮)神戸アイセンター」を創設することを、国家戦略特区の目玉として申請したのです。
 医療産業都市では昨夏、iPS細胞を使った世界初の臨床研究がスタートしました。そして今年の9月12日、理化学研究所の高橋政代・網膜再生医療研究開発プロジェクトリーダーが、網膜の病気「加齢黄斑変性」の患者に対し、iPS細胞から分化させて網膜色素上皮細胞の移植手術を世界で初めて成功させました。
 神戸市のアイセンター構想は9月30日、「関西圏国家戦略特区」の区域計画において、正式に内閣総理大臣に認定されました。高橋政代先生が世界初の移植手術として実施した網膜再生治療をはじめ、様々な再生医療の実用化を促進する研究の国際的な拠点となるもので、わが国の再生医療分野における国際競争力の強化に大いに貢献するものだと確信しています。これまでの治療法では完治が見込めなかった目の疾病を抱えた患者の方にとっても、大きな希望になると思います。
 センターでは、視力の低下した人に補助器具などを使って機能を改善するリハビリや、生活訓練施設についても計画されており、こういったロービジョンケアの面でも先駆的な拠点になると思います。この他にも遺伝子治療や角膜再生といった先端医療や、病気の早期発見につながる新たな検査法の開発など、様々な可能性を秘めています。来年から着工し2017年度に開業する見通しです。
 私も少しでもこの神戸の挑戦を応援したいと、高橋政代先生と、玉田敏郎・神戸市副市長、今西正男・神戸市理事ら神戸市幹部と一緒に、10月16日、石破茂・国家戦略特区担当大臣、塩崎恭久・厚生労働大臣、山脇良雄・文科省大臣官房審議官を訪ね、アイセンターの政府挙げての支援を強く要望しました。
石破茂・国家戦略特区担当大臣と
塩崎恭久・厚生労働大臣と
 このアイセンター構想の大きな特徴として、官民協働があります。アイセンター内に開設する眼科病院の運営は先端医療振興財団が行ないますが、細胞培養には理化学研究所認定ベンチャーのヘリオス(東京)、大日本住友製薬(大阪市)が参加する予定で、更には目の不自由な人への支援を続けるNPO法人と協力するなどの運営方法も検討されています。これまでの医師の視点に偏りがちだった運営を見直し、利用者の視点、患者の視点も運営指針に盛り込むと、高橋政代先生も力説されておられました。
 両大臣ともに、この世界に先駆けて行われたこの臨床研究が有する意義と、日本の医療と科学技術、そして産業基盤の発展にとっての重要性をしっかりと認識していただけたようです。私も今後とも積極的に働きかけて参りたいと思います。
経済社会の基盤としての医療
 昭和23年に制定された医療法の第一条の三には、国及び地方公共団体は「国民に対し良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制が確保されるよう努めなければならない」との定めがあります。国民全員が平等に、安心と安全を享受でき、納得することのできる良質な医療を提供することについて、国のみならず、地方自治体にとっても重要な責務であることを示したこの条文は、今なお、我が国の医療政策の基本原則として根付いています。
「社会保障としての医療」と「産業としての医療」は、車の両輪であり、どちらが欠けても国民にとって望ましい医療は実現しません。医療を産業として発展させるための環境整備を、国の補助金のみに頼らず、民間企業との協働により、民間の力や叡智を充分に生かしながら、自治体がリーダーシップを取って推進するのが、神戸医療産業都市の基本理念であり、多くの自治体にとっての良い先例になると思います。
国民皆保険制度という世界に冠たる高水準の医療制度を維持しながら、一方で持続的発展が可能な質の高い医療を、国民が将来にわたって享受できるか否かは、一重にこうした医療の産業化を、地方自治体が民間と協力して成功させるかにかかっているとも言えます。
 世界最高レベルの先端医療技術を集積させて、次世代の産業拠点を築こうというこの神戸の取り組み、私も国政の場で精一杯応援したいと思います。

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