法人税改革に合わせ欠損金繰越控除制度の抜本見直しを

更なる法人税改革
  安倍総理が、今年1月22日、スイス・ダボス会議において、「法人税も、国際相場に照らして競争的なものにしなければならない。本年、更なる法人税改革に着手します」と表明して以来、政府・与党内では、法人税減税の議論がにわかに盛り上がっています。
 法人税減税の議論は、日本において企業の法人所得に課税される実効税率が35.64%と、米国に次いで世界最高水準にあり、これが日本の国際競争力の大きな阻害要因の一つとなっているとの問題意識からスタートしています。法人実効税率を引き下げることによって、日本への投資に二の足を踏む外国企業を呼び込むと同時に、日本企業の競争力を高め、ひいては日本経済を活性化させようというのが狙いです。
 自民党税制調査会は年末開始が通例です。しかし本年は、異例の措置として、この法人税減税について、党税調は、1月27日に幹部会を、4月24日には小委員会の平場での議論をそれぞれ党本部で開始するなど、法人課税改革の議論のペースは、急速に早まっています。
 今年2月の経済財政諮問会議では、伊藤元重東京大学大学院教授などの民間議員から、法人実効税率を25%の水準まで引き下げることが提案されました。政府は6月にもまとめる骨太の方針に、この法人実効税率の中期的引下げの方向性を盛り込む予定です。
法人税パラドックス
 経済産業省は、法人実効税率を10%程度引き下げた場合、経済が活性化され、GDPを少なくとも7兆円押し上げ、税収は、逆に1兆6,000億円増えるとの試算を示しています。
 一方、総務省や財務省は、法人税減税により5兆円税収が落ち込み、それにより国の財政収支均衡の達成が更に遠のくとともに、地方自治体の財政も一層危機的な状況になると訴えています。
 私自身は、法人税減税によって税収が増えるのか、減るのかといった所謂「法人税パラドックス」の神学論争に深入りするつもりはありません。しかし国家及び地方の存否に大きく影響する政策を実行するには、客観的かつ計量的な検証を通じて将来の見通しを立てて、ミクロではなくマクロの観点からも国民に利益のある政策であることを確認した上で進めることが大前提だと考えます。
 かつて公共事業削減が声高に叫ばれ、関連支出が大幅に削減された際も、一方で失業率が大幅に増え、失業給付や生活保護支出が増大したことにより、トータルとしての財政効果はあまりなかったのではないでしょうか。一部だけを捉えて結論を急ぐことがあってはならないでしょう。
まして、法人税は所得税、消費税に次いで三番目の主要な財源であることから、安易な減税論は財政赤字の更なる悪化を招くことになります。法人関係税収の約6割は地方自治体の収入になっており、地方財政に与える影響も甚大です。
 そもそも、まず法人税減税ありきの議論には、釈然としない国民の方も多いのではないでしょうか。法人税減税は、企業、特に大企業に対する優遇策となりがちだからです。資本金10億円以上の大企業の内部留保が270兆円を超えている中、更に法人税減税をしたところで、景気への刺激効果があるのかと疑問視する声もあります。
欠損金の繰越控除制度は正しいか
 昨年12月にまとめられた与党税制改正大綱では、「法人実効税率を引き下げる環境を作り上げることも重要な課題」とする一方、「政策減税の大幅な見直しなどによる課税べースの拡大や、他税目での増収策による財源確保を図る必要がある」と明記されました。

 

 課税ベースの拡大を議論する際、しばしば槍玉に挙げられるのは、欠損金の繰越控除制度です。政府税制調査会法人課税専門委員会の大田弘子座長は、「租税特別措置や欠損金繰越控除の見直しを進め、税制の中立を図るが、経済活性化の視点も織り込んだ法人課税改革を進めていく」との方針を示しています。

 欠損金の繰越控除制度は、企業が赤字を出した場合に、赤字相当額を翌年度以降の黒字(課税所得)から差し引くことができる制度です。赤字は9年間繰り越すことができ、資本金1億円以上の大企業は各年度の黒字額の8割まで、中小企業は全額を控除できます。
 2012年度においては、法人企業の70.3%が赤字決算であり、7割を超す法人企業が法人税を払わなくてよいという、異常な状態が続いています。
 国税庁「会社標本調査」(2012年度)においては、繰越欠損金の当期控除額は8兆6,939億円であり、翌期繰越額は73兆836億円となっています。一方、利益計上法人の所得金額は40兆7,636億円であり、申告所得に対する当期控除額の割合は2割を超えています。そして、国税庁「会社標本調査」(2011年度)に基づく欠損金の繰越控除制度による法人税の減収額は、2.3兆円と試算されています。
JALの二重恩恵問題
 この欠損金の繰越控除制度は、事業継続性確保の観点から企業にのみ認められているもので、国民の大多数を占めるサラリーマンには認められておらず、国民感情からすれば、やはり不公平感を拭えません。不良債権処理による損失発生で、金融機関が長期にわたって法人税を負担していなかったことには、様々な批判がなされ、最近ではJALの再建の際に、この制度が大きく問題視されました。
 2010年1月に、JALが会社更生法を申請してから丸4年が経ちました。JALの当時の負債総額は事業会社として過去最大の2.3兆円、債務超過額は約1兆円でした。庶民感覚からすると、ちょっと気の遠くなるような数字です。
 JALの再生については、当時の民主党政権が主導して支援を決定し、政府は、企業再生支援機構を通じて約3,500億円もの公的資金投入等の支援を行うと同時に、金融機関に5,215億円にも上る債権放棄を迫りました。これも国家が一企業を救済する金額としては破格の金額です。
 それに加えて、欠損金の繰越控除制度です。通常、欠損金を繰り越せるのは、課税所得の8割まで、すなわち黒字の少なくとも2割は法人税を払わないといけません。しかし、会社更生中の企業については、10割まで相殺できる特例があるため、JALもこの特例が適用されました。
 結果として、JALは、2010年1,884億円、2011年2,149億円と2年連続で過去最高益を更新する一方で、税制上の優遇措置により約4,000億円も法人税が減免されるほか、債務免除益とその利子分を含めますと約6,000億円もの負担軽減となっています。
 JALは、企業再生の過程で債務免除も受け、現在、事実上、無借金状態であり、利子支出もなく、2014年3月期の業績見通しでは当期純利益1,480億円となっています。JALの利益率は、2012年実績では15.8%と世界のキャリアの平均5%を大きく上回っています。1兆2,000億円の赤字が解消するまでの間、毎年JALは全く税金を払う必要がないのです。
 こうした競争条件における不公平な歪み、格差はどうして生じてしまったのでしょうか。税制上の多大な恩恵が認められている会社更生法適用中の企業に、重ねて公的支援・出資まで二重重ねで行うという、これまでに例がない措置を行ったことが、今回の問題の主因であると、私は考えています。
 企業再生支援機構による公的支援と、これに加え、会社更生手続、法的整理、この二つを併用した、言うなれば「二重恩恵」を民間企業が享受したケースは、JAL以外にはありません(ウィルコムは債権者間調整のみ)。
公平な税制のための改革を
 勿論JALの社員も、人員数・人件費単価の削減、企業年金制度の改定、グループ会社数の大幅縮小などといった過酷なリストラに向けて、大変厳しい環境の中、苦労を惜しまず、経費削減や効率化のために、創意工夫を凝らしながら、必死に努力をしてきました。再生に向けたJAL社員の皆様のご努力には、心から敬意を表したいと思います。
 しかし、公的な資源、つまり税金を投入して再生する一方で、それによって再生した企業からの税金を免除する。このような措置は、この厳しい経済状況の中で歯を食いしばって経営を行っている企業にとっては不公平に映るのではないかと思います。真面目に汗をかいて働いている正直者がばかを見るような社会になってはならないと、誰もが感じていることでしょう。
 消費税を増税しながら、一方では法人税減税をするというのであれば、公的資金の投入により救済された企業については、欠損金の繰越控除制度の適用を抜本的に見直すべきではないかと考えます。
 具体的には、通常、課税所得の8割とされている欠損金の繰越控除限度額を、公的資金の投入によって救済された企業については、6割、4割と引き下げ、少しでも国民負担の軽減に寄与させるべきです。現在はむしろ10割になっているのですから、この異常な状態は直ちに是正すべきです。
 法人課税改革の議論は始まったばかり。私も自民党はじめ様々な場所で、議論に参加して参りたいと存じます。

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